札幌高等裁判所 平成元年(ネ)199号 判決 1991年6月26日
控訴人(参加人)
第一審原告亡本村由松相続人養女
田村悌子
右訴訟代理人弁護士
牧口準市
猪狩康代
中山博之
坂原正治
澤田昌廣
浅井俊雄
五十嵐義三
伊藤信賢
石黒敏洋
梅原成昭
太田賢二
小寺正史
笹森学
鈴木悦郎
鈴木貞司
田中貴文
中村仁
丸岡敏
三津橋彬
村岡啓一
山本行雄
吉川正也
被控訴人
国
右代表者法務大臣
左藤恵
右指定代理人
名取俊也
外一六名
主文
本件控訴を棄却する。
本件参加申立てを却下する。
控訴費用及び参加費用は控訴人(参加人)の負担とする。
事実
一 控訴人(参加人、以下「控訴人」という。)代理人は「原判決を取り消す。本件を札幌地方裁判所に差し戻す。中間の争いに関して生じた訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二 控訴人は、第一審原告亡本村由松(以下「亡本村」という。)の提起にかかる本件訴訟の請求の趣旨及び請求の原因は原判決理由欄一に記載のとおりであるが、亡本村は右訴訟の第一審の係属中である昭和六三年四月二七日に死亡したので、同人の相続人である控訴人は、原判決五枚目表八行目から同七枚目裏三行目までに記載のとおりの理由により、亡本村が提起した本件訴訟における原告の地位を当然承継したものである旨主張し(原判決の右各部分を引用する。)、さらに、当審において次のとおり主張した。
1 本件老齢年金支払請求権は相続の対象になるから、亡本村の相続人である控訴人は亡本村が提起した本件訴訟における原告の地位を当然承継するものである。
(一) 公法上の金銭債権の譲渡性の有無は、公益上又は社会政策上その権利を特定人に留保しておく必要性が認められるかどうかによって決定されるべきである。この観点からみれば、公法上の請求権のうち社会保障立法に基づいて社会保障給付を受ける権利は、帰属上の一身専属権であるといえる。
帰属上の一身専属権である公法上の請求権について、法が譲渡・差押を禁止している趣旨は、受給権者本人がこの受給権を現実に享受することができるように、受給権者の地位を特に保護しているものであるから、純然たる第三者の手に渡ることを前提とする譲渡、差押が禁止されることと本人の地位の承継人である相続人の利益に帰することになる相続の可否とは区別して論ずべきである。
(二) 基本権たる老齢年金請求権については、その性質上これを相続することはできないかもしれないが、すでに受給権の裁定を受けた具体的な老齢年金請求権の相続性の有無については、公益上又は社会政策上妥当かどうかという観点から判断されるべきであり、次のような事情をも考慮すれば、一般の金銭債権として当然に相続の対象となると解すべきである。
(1) 右年金給付は権利者のみではなく家族の生活にも寄与するものであり、たまたま権利者の死亡により給付されないとすれば、家族の利益と期待を裏切ることになる。
(2) 被保険者が年金の給付を受けたらこれで返済するつもりで生活費を第三者から借りていたようなとき、給付を受ける前に死亡すれば、債務は相続人に相続されるから、未支給の保険給付を受ける権利がないということは極めて不都合になる。
(3) 老齢年金が未支給の間の被保険者の生活は家族等第三者の負担に依存していることが予想される。被保険者の死亡という偶然の事実によって国がすでに支払義務を負っている年金債務の支払を免れるとするならば、国は被保険者の家族らの経済的負担により自らは年金の支払義務を免れ、これを不当利得することになり、正義に反する。
(4) 老齢年金の支給を受けている者は高齢者であるから、仮に国が支給要件があるにもかかわらず、これを拒絶して具体的紛争になった場合、受給権者は時間の経過とともに死亡してゆくことになり、紛争が長引けば長引くほど国は老齢年金の支給を免れるという不合理な結果になる。
(三) 老齢年金請求権はその相続性を考えるについて生活保護法に基づく保護受給権と同一視することはできない。
(1) これらはいずれも国民の健康で文化的な生活を保障することを目的とする社会保障制度の一環をなすものであるが、老齢年金請求権は社会保険に基づく制度であり、生活保護法による保護受給権は公的扶助に基づく制度であって、両者は沿革的にも独立した別個の制度である。
(2) 社会保険は、被保険者の生活保障を保険的方法を用いて実行するものであり、その技術的基礎を個別保険(私保険)においており、社会政策目的、社会保障の目的から保険的方法が修正されているとはいえ、給付と反対給付の対価的関連を否定するものではない。また、社会保険における金銭給付請求権は債権法の適用を受けるが、これは伝統的な市民的財産法における財産権や契約に関する諸原理がなお適用されているということである。
このような点を考慮すると、社会保険給付である老齢年金請求権につき、その相続性を考察する場合に、単に社会保障という公法的関係であることを理由に生活保護受給権についての法律構成をそのまま持ち込むべきではなく、当該老齢年金の支給の要件、保険料等拠出の有無、給付金額と拠出保険料との関連性等を具体的に考察するなかで、その相続性の有無を判断すべきである。
(3) 老齢年金は経済的出捐を義務化、強制化することによりその対価としての将来の経済的期待権を与え、年金額は原則としてその拠出期間、拠出額にかからしめて拠出に対する反対給付としての性格を持たせ、法定の事故発生により、所得の多少にかかわらず、一律的、画一的な受給権を認め、財源の確保を拠出金によることを基本とし、積立金額と給付金額との間に不均衡が生じた場合は、保険料の引き上げが予定され、現に実施されており、自助性、対価性を高めている。
また、拠出金につき保険料という名称を用いて、拠出性年金を私的保険類似のものとして認識させているし、その給付金に対して国税滞納処分等が可能とされているが、これは不測の事故に対する障害年金等とは異なり、予測可能な自己の老齢化に備える貯蓄的性格を有しているということである。
老齢年金受給権のこのような財産権としての性格に着目するならば、これは相続の対象となる財産権というべきものである。
2 原判決は、控訴人の国民年金法(以下「法」という。)一九条一項に基づく特定承継の可否、すなわち民事訴訟法七三条による参加承継の可否について実体上の判断をしていないから、この点について控訴審裁判所が自ら判断するか、あるいはその点の審理を尽くさせるために本件を原審に差し戻すべきである。
(一)(1) 控訴人は原審において、法一九条一項による未支給年金請求権の取得を根拠に、当事者適格の第三者への移転という観点から、本件訴訟における原告たる地位の承継があったことを主張した。控訴人は独立当事者参加の手続をとっていないが、これは相続法理及び当事者適格の理論に基づいて原告たる地位の当然承継を本位的に主張している関係上、参加承継の申立てをすること自体が論理的に整合しないからである。
原審裁判所は法一九条一項に基づく当然承継を認めなかったが、当事者の存否に関する本案前の問題は裁判所の職権調査事項であるから、裁判所が当然承継を認めないのなら、法一九条一項による未支給年金請求権の内容は死亡した受給権者が生存中に有していた未支給年金請求権と同一のものであり、実質的には未支給年金請求権の特定承継があったものと擬することができるのであるから、控訴人の「原告の地位の承継」の主張に含まれている「参加承継」を手続に顕在化させるために、釈明権を行使して参加承継の申立てをさせる必要があった。
(2) したがって、原審において、控訴人は、亡本村の死亡に伴い、亡本村の権利義務を当然承継したことを理由とする原告たる当事者の地位と法一九条一項により未支給年金請求権を特定承継したことによる参加承継人としての地位を取得し、原告たる地位に基づいて老齢年金の支払を請求すると同時に参加承継人たる地位に基づいて法一九条一項に基づく未支給年金の支払を請求したことになる。これに対し原判決は、亡本村が提起した訴訟については終了宣言をすることにより、控訴人の当然承継の主張を排斥したが、控訴人が参加承継人としてした請求については判断していない。
本件控訴は控訴人の原審における原告たる地位に基づく原判決の訴訟終了宣言に対するものであると同時に、参加人の地位に基づく右判断遺脱に対するものである。
(二)(1) 原判決は、法一九条一項に基づく請求権は、所轄行政庁の支給決定を受けていない以上単なる抽象的、観念的権利にすぎないものであるとして、取消訴訟の排他的管轄性の法理を理由に、控訴人の同条項に基づいてする給付請求はその適格を有しないとして、いわば門前払をし、特定承継の可否につき実体判断をしなかった。しかし本件は取消訴訟の排他的管轄性の法理が適用される場合ではない。
(2) 取消訴訟の対象となる処分は行政庁の公権力の行使としてなされる行為、換言すれば、公定力を生ずる性質の行為でなければならず、いかなる行為に公定力が認められるかは、法律が右行為を当該行政庁の優越的な意思の発動として行わせ、私人に対してその結果を受忍すべき一般的拘束を課しているか否かの観点から判断されるべきである。国民年金法においては、社会保険庁長官の行う裁定は優越的妥当力を有したり、受給権者の受忍を強制しているという性格のものではなく、同法が行政不服審査の制度及びそれを前提とする取消訴訟を不服申立制度として規定しているのは、専ら法律関係の明確化、統一的処理という法技術的な観点から行政処分としての形式を利用しているものであって、このような形式的行政処分に対しては取消訴訟のみが許されるというのではなく、民事訴訟や実質的当事者訴訟によることも許される。
また、形式的行政処分においては、行政不服審査制度等が右のような法技術的なものであるから、そこでの審理の対象は当該根拠法規に定める要件の該当性に限られ、根拠法規それ自体の違憲性を問う場合は審理の対象外である。現に亡本村の法二〇条(昭和六〇年法律第三四号による改正前のもの)が違憲であることを理由とする老齢年金等支給停止処分に対する取消請求につき北海道社会保険審査官は審査官の権限に属さないことを理由に審査請求を棄却し、これに対する再審査請求に対しても北海道社会保険審査会はその権限に属さないことを理由に却下した。
法律の規定そのものの違憲無効を理由に形式的行政処分の取消しを求めることは右のとおり行政不服審査の権限外の事項であるうえ、本件におけるように法二〇条の法的効果として年金の支給停止が導かれ、取り消し得べき処分なるものを考える余地がなく、純粋に法規それ自体の有効無効が問題となる場合は、本来的な私法関係に即して民事訴訟または公法上の実質的当事者訴訟を提起して何ら差し支えない。被控訴人は亡本村の提起した本件訴訟が実質的当事者訴訟の形態であることを承認していたものであり、亡本村の提起した訴訟に取消訴訟の排他的管轄性の法理が適用される余地は全くなかった。
(3) 法一九条一項に基づく請求権は既に裁定を受けて具体的権利となっているものであり、この未支給年金の支払を請求する行為は権利の具体化を求める裁定請求ではなく交付請求であり、所轄行政庁は請求権者としての適格性についてのみ判断するものであり、その許否の決定は単なる事実上の通知でしかあり得ず、公定力を生ずるようなものではない。控訴人は亡本村の子で、生計を同じくしていた者であり、法一九条一項の未支給年金を請求できる者であって、法一九条一項の未支給年金の内容が死亡した受給権者が有していた未支給年金と同一であり、控訴人の法一九条一項に基づく請求は亡本村の法二〇条による支給停止が違憲無効であるという前提問題を承継していることからも、控訴人の法一九条一項に基づく請求には取消訴訟の排他的管轄性の法理は適用されず、その請求は実質的当事者訴訟の形態をとることができるものである。
三 被控訴人の当審における主張は次のとおりである。
1 未支給の老齢年金請求権には相続性は認められないから、亡本村が提起した訴訟は同人の死亡により当然に終了したものであり、控訴人が民事訴訟法二〇八条により右訴訟を承継する余地はない。
(一) 老齢年金は、その趣旨からして、年金受給権者の生存中に本人に対して支払われるところに意義があるのであって、相続に親しまない一身専属権であると解すべきである。法二九条は受給権者の死亡により受給権は消滅するものとし、法二四条は受給権の譲渡、担保供与、差押えを禁止し、法一九条は受給権者の死亡による受給権の消滅を前提としつつ、未支給年金について一定の要件のある者に自己の名で請求できることとしているが、これは法が未支給の老齢年金についても一身専属権として相続性を認めていないということである。
(二) 拠出性の老齢年金においては、年金額算定の基礎は原則として保険料の拠出期間、拠出額によっているが、年金として給付される費用の三分の一相当額及び運営費は国庫負担となっていることや、その拠出が全体としての給付額や危険に応じて定められているわけではなく対価性は極めて希薄であること等からみれば、年金の保険的性格は弱まっており、扶助的性格を強くしている。したがって、未支給年金請求権について財産性を強調してみても、そこには限度があり、直ちに相続性が認められることにはならない。
2 控訴人の特定承継、民事訴訟法七三条による参加の主張について
(一) 民事訴訟法七三条による参加は、訴訟の係属中であることが前提であるところ、第一審原告である亡本村の死亡により、本件訴訟は当然に終了しているのであるから、その後に参加することができるとの控訴人の主張は、その前提を欠き、失当である。
仮に、相続性が認められるとすれば、同一人物が自ら当然承継した訴訟に参加申立てをしたことになり、自己矛盾であるうえ、当然承継が認められない場合の予備的参加申立てであるなら、それは不適法である。
(二) 法一九条一項に基づき未支給年金の支払を求める者はまず行政庁に対しその支払を求める手続を採るべきであり、行政庁が不支給決定をした場合には、法一〇一条、一〇一条の二の規定に従い行政上の不服申立ての手続を経由した上、当該不支給決定の取消訴訟を提起してその適否を争うべきである。右のような手続を経ない段階においては、法一九条一項に基づく請求権は単なる抽象的、観念的な権利にすぎず、右請求権の行使としての給付訴訟を提起することはできない。
したがって、控訴人の主張は、参加承継の成否につき判断するまでもなく理由がない。
(三) 法一九条一項に基づく請求権は、法が一定の要件を満たす者に自己固有の権利として請求することを認めたものであって、原始的に取得される権利である。したがって、承継取得を前提とする参加申立ては不適法であり、さらに、控訴人は法一九条一項に定める生計同一の要件を満たしていないから、同条項に基づく亡本村の未支給年金請求権を取得する余地はないのであって、この点からみても、その参加申立ては不適法である。
仮にこれを承継取得に類するものとして考えてみても、民事訴訟法七三条により参加承継の申立てをするには同法七一条の手続を履践しなければならない。控訴人が原審において右手続を履践していないことは控訴人の自認するところである。控訴人は原審において相続による当然承継の申立てをしているが、手続の明確性、安全性からも、右申立てに参加承継の申立てが含まれていたと解することはできない。したがって、原裁判所が参加承継について判断しなかったのは当然のことであり、何ら判断の欠落もない。
四 控訴人は当審において民事訴訟法七三条に基づく参加を申し立てたが、その請求の趣旨及び原因等は次のとおりである。
1 請求の趣旨
(一) 被控訴人は控訴人に対し金一〇六万六九三三円を支払え。
(二) 参加について生じた費用は被控訴人の負担とする。
2 請求の原因
(一) 第一審原告亡本村は、被控訴人に対し、老齢年金一〇六万六九三三円の支払を求めて本件訴訟を提起したが、昭和六三年四月二七日に死亡し、控訴人は法一九条一項により未支給年金債権を取得した。控訴人が取得した右未支給年金請求権は亡本村が有していた右老齢年金請求権を特定承継したものである。
(二) 民事訴訟法七三条に基づく参加の申立てをする場合には、第一審原告亡本村及び被控訴人を相手方として両当事者に対する請求の趣旨を掲げなければならないが、参加承継の根拠が原告亡本村の死亡を原因として法一九条一項によって特定承継がもたらされるところにあるのであるから、亡本村に対する請求の趣旨及び理由を掲げる必要はない。結局、独立当事者参加が認められた後の三面訴訟が被参加承継人の脱退により、参加承継人と被控訴人との二面訴訟に転化するのと同じ現象が、国民年金法上の法的効果として、特定承継があった時点で当然に実現されているものと考えることができる。
(三) よって、参加人は被控訴人に対して右未支給年金一〇六万六九三三円の支払を求める。
五 控訴人の当審における参加申立てに対する被控訴人の主張は次のとおりである。
1 控訴人の本件参加申立ては不適法であるから却下されるべきである。すなわち、控訴人は当審における訴訟の当事者であるから、自己を当事者とする訴訟への参加申立ては不適法であり、第一審原告亡本村を当事者とする訴訟に参加する趣旨であるとしても不適法であるが、その理由は前記三2の(一)ないし(三)に記載のとおりである(ただし、同(三)の後段を除く。)。
2 参加事件の請求の趣旨及び原因に対する答弁等
(一) 請求の趣旨に対する答弁
(1) 控訴人の請求を棄却する。
(2) 参加について生じた訴訟費用は参加人の負担とする。
(二) 請求原因に対する主張
控訴人の請求は、亡本村が生前に未支給の老齢年金請求権を有していたことを前提とするものであるが、亡本村は右請求権を有していなかった。仮に、亡本村が右請求権を有していたとしても、控訴人は法一九条に基づく請求権を取得する余地がない。したがって、控訴人の請求は理由がない。
理由
一第一審原告亡本村の提起にかかる本件訴訟の請求の趣旨及び原因が原判決理由欄一に記載のとおりであること、同人は本件訴訟の第一審係属中である昭和六三年四月二七日に死亡したこと及び亡本村の養女である控訴人が亡本村の唯一の相続人として亡本村に属した権利義務を相続により承継したことは本件記録上明らかである。
控訴人はまず亡本村が提起した本件訴訟における原告の地位を当然承継したものである旨主張するが、これを認めることはできない。その理由は、原判決一一枚目表三行目の「もっとも、法一九条は」を「このことは、法一九条が」に改め、同九行目の「しているけれども、」を「して、未支給年金を請求することができる者の範囲及び順位について民法が規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なった定め方をしていることからも明らかである。すなわち、」に改め、同一三枚目表三行目の「過ぎないものであって、」の次に「右一定の範囲の遺族は右請求権を右規定により直接自己固有の権利として取得するものであり、」を加え、同一三枚目表四行目から五行目にかけての「構成するものであり、」の次に「これを遺産の包括的承継と同様にみなすことはできない。したがって、この点についての控訴人の主張も理由がない。」と加えるほか原判決七枚目裏四行目から同一三枚目表四行目から五行目にかけての「構成するものであり、」までと同一であるから、これを引用する。
そうすると、亡本村が提起した本件訴訟は、同人が昭和六三年四月二七日に死亡したことにより終了したものであり、控訴人が右訴訟を当然承継する余地はない。
二次に控訴人は、原審においては控訴人の民事訴訟法七三条による参加についての可否が判断されていない旨主張するが、本件記録によるも控訴人が原審において民事訴訟法七三条に基づく参加を申立てたことは認められない。
記録によれば、控訴人は原審において、昭和六三年五月一六日付けで、亡本村が昭和六三年四月二七日に死亡し、相続人である控訴人が訴訟手続を受継したのでその申立てをする旨記載した「受継申立書」を提出していることが認められるが、民事訴訟法七三条による参加の申立ては、その性質は訴えの提起であり、同条及び同法七一条に定める手続を踏んでなされなければならず、右受継申立書の提出をもって民事訴訟法七三条の参加の申立てをしたもの、あるいは右申立てに参加の申立てが含まれているものとみなすことはできない。
したがって、原審が参加の可否につき判断しなかったとしても何ら違法ではない。
民事訴訟法七三条に基づく参加は他人間の係属中の訴訟に対して参加するものであるが、前記のとおり亡本村の提起した本件訴訟は同人の死亡により終了したものである。そして、控訴人は、法一九条一項による未支給年金請求権の取得を主張するものであるが、法一九条一項に基づく請求権は年金給付の受給権者が死亡した場合に遺族の中の一定の者に付与される請求権であり、控訴人は亡本村の死亡により右請求権を取得した旨主張するものである。しかし、亡本村の提起した本件訴訟は同人の死亡により終了したものであるから、控訴人は右訴訟に参加する余地はなかったものであり、したがって、原審裁判所が控訴人に対して同条に基づく参加について釈明しなかったからといって、何ら釈明義務に違反するものではなく、この点についての控訴人の主張も理由がない。
三控訴人は当審において民事訴訟法七三条に基づく参加を申し立てたが、同条は係属中の他人間の訴訟に参加する場合を定めているものであるところ、控訴人は自己を一方当事者とする訴訟に参加を申し立てるものであるから、これは不適法である。
もっとも、控訴人は、亡本村が有し、同人が提起した訴訟において請求していた未支給の老齢年金債権を法一九条一項に基づき亡本村から特定承継したものであることを主張して、民事訴訟法七三条に基づく参加を申し立てるものであるから、むしろ亡本村の提起にかかる訴訟に対して参加申立てする趣旨であると解されるが、そうであるとしても、右訴訟は第一審に係属中の昭和六三年四月二七日に同人の死亡により終了したことは前記のとおりであるから、本件参加の申立ては右訴訟の終了後になされたものであって不適法である(なお、本件参加申立てを新訴の提起として第一審に移送することは、控訴人の主張からみて、相当ではない。)。
四よって、亡本村の提起した本件訴訟につき、亡本村の死亡による終了を宣言した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴人の当審における参加申立ては不適法であるから、これを却下し、控訴費用及び参加費用の負担につき民事訴訟法八九条、九四条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官磯部喬 裁判官竹江禎子 裁判官成田喜達)